カテゴリ:本と言葉( 90 )

エッセイ「パンツのゴム」

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「青春と読書」(集英社)たまに読む冊子。
価格は100円ほどだが、自由にお取りくださいと書いてある書店もある。小さく薄い冊子で、賞をとったり、新刊をだした作家のエッセイなどを載せることも多い、気軽な読み物だ。

「共食い」で芥川賞を受賞した作家 田中慎也さんの巻頭エッセイに目が留まった。2017年1月号だから、半年くらい前のもの。
受賞会見で「もらっといてやる」とうそぶいたことで話題をさらったので、記憶にある方もいると思う。受賞作を読んでみたらあまりに後味の悪い作品だったのに、文体がなかなかおもしろいぞと思い再読して、また具合悪くなった。それなのに、こともあろうかその後の彼の作品もつぎつぎに読んでしまった。意外と好きなのかもしれない。そんなこんなで、出張の際に時間を割いて東京の新宿紀伊国屋書店でサイン会に並んだことがあるが、人数オーバーで断られた。ほら、結構はまったのだ。

受賞する40歳近くまでニート(とはいわないのか、物書きだから)で下関に母親と住んでいたが、2年ほど前に東京に移り住み、作家業だけで暮らしているらしい。このエッセイはその作家人生の苦しさを「パンツのゴム」になぞらえて書いた、とても笑えるエッセイだった。
作家は、伸びたり縮んだりしながら生きていく。万が一ゴムがきれたら恥をさらす、という内容。

ゴムはゴムでもパンツというのはクスッと笑える。

それにしても作家はすごい。だから本は面白いんだと思った一節。がんばって書いてください、田中先生。

「どれだけ準備しても、また気力に満ちていても、いざ書くとなるとなれば、横断歩道のない道を横切る時のように、左右を恐る恐る確認しながら進む。怖がりで大胆。非常識なのに臆病。」
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by kitchenparadise | 2017-08-16 19:43 | 本と言葉

愛のかたち 岸恵子著

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愉快だ。爽快だ。ニマニマしてしまう。だんだん希望が湧いてくる。

そう思わせてくれた本が、こちら。


ベストセラー『わりなき恋』から四年 
パリを舞台にした至高の恋愛小説
 

愛のかたち 〈前編〉岸 惠子 

いやー、もう、お見事です。感服しました。
この小説はオール読物という文芸雑誌に掲載された岸恵子さんの小説。しかもまだ前編です。後編は来月9月号なので、本になってからお読みになってもいいでしょう。

お話は、どこにでもあるストーリー。ほんとよくある話。よくあるどころか、「君の名は」(古いほうね)がまだ続いてる感じですよ。

パリに住む日本人キャリアウーマンが運命的にある男性に会うという。
パリの小粋な風景がちりばめられ、おいしそうにおしゃれにワイングラスを傾ける二人。岸さんの書く主人公はいつも女性が賢く強く、懸命。
男性は、エレガントで強く優しい、立派な男性。いつも一途。

どこにでもあるお話の何がそんなに愉快なのかというと、岸さんの書く恋愛小説が、まるで30代の作家が書いたかのように、若々しく生き生きとしているのです。
いいですか、この方、岸恵子さんはいくつかご存じですか。 

御年 84歳ですよ!
なかなか書けませんよ。50歳目前の私に、高校生の小説書けったって書けません。しらじらしくなりそう。(その前に、書くに書けませんが)80を過ぎても、こんな感情になるのか、そうでなくてもこんなこと想像できるのかというのが、希望といいたいわけです。
恋愛でなくても、年齢のせいしたらいけない。ぜったい「おばちゃんですいません」とか言わない!
岸さんはこうおっしゃいます。
「やりたいことはたくさんある。やりたいことがなくなったら死んだほうがいい」

心して。大事なことなので2回いいます。 こころして。
by kitchenparadise | 2017-07-26 20:01 | 本と言葉

おはじきを上に動かすとポジティブになる?

文藝春秋SEPCIAL「脳と心の正体」という本がおもしろいですね。
MOOK本(雑誌)ですが、ベストセラーの「言ってはいけない」の橘玲氏、「サイコパス」の中野信子先生、アドラー研究の岸見先生などなど、人気者勢ぞろいで寄稿しています。

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その中で九州大学の妹尾先生が書いた「テンションが上がる心理学」というのがあります。サブタイトルが
「おはじきを上に動かすとポジティブになる!?」と、ちょっと意味が分からない感じです。

概要はつまり、
「心は身体の無意識の声を聴く」というもの。

おはじき実験というのをします。おはじきを上の方に手で運ぶ、ないしは下の方向に手で運ぶ。その行動を続けながら「昨日あったことをなんでもいいから報告してください」という記憶再生課題とやらを行うのです。

そうすると、おはじきを上に運んでいるときにはポジティブな記憶が思い出される頻度が増え、下に運んでいる時にはネガティブな記憶が思い出される頻度が増えた、と。

大げさな、まさかね、って話なのですが、ほかの似たような実験もすべて身体の動きによって心の向きが変わることが多く、読み終えると納得します。

著者は、もっと簡単なことも。

落ち込んでいて肩を落としトボトボ歩くと、この身体からくる情報がよりネガティブな心理状態を引出すし、悲しい時に無理にでも上を向いて歩くなど、身体性の入力をポジティブにすれば脳が騙されて、いつしか実際の気分もあがるという。

つまりですよ。

脳は身体の奴隷。

そういうことらしいのです。

みなさん、思い当たる節が多々あるでしょう。

もう上をむいて歩くしかないですね。日ごろの行動も、下から上に、にしてみますか。





by kitchenparadise | 2017-06-28 12:30 | 本と言葉

又吉先生の「劇場」を読んで

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「劇場」(新潮社)又吉直樹著

読みましたよー。スタバで一気に。
「3作目までは自分のことで書けば作品になる」と某雑誌の編集長が言っていたけれど、まさに又吉さんとオーバーラップする感じの主人公。本人はインタビューで恋愛小説と言っていたけれど、これは人間ドラマですね。告白も、濡れ場も、キスシーンもありません。

内容は、小さな劇団を主宰していて全く仕事がない脚本家の男性が、ある性格のいい女の子と知り合い同棲する。夢を追いかけるが口ばっかりなコンプレックス主人公と、自己犠牲が過ぎるできた女の子の物語。
まるで太宰治の小説を現代版に書き直したかの内容で、又吉先生はよほど太宰が好きやな~と感じたのは私だけではないでしょう。

昭和の歌で「神田川」ってありましたよね。「若かったあの頃~何も怖くなかった~、ただあなたの優しさが怖かった~。」
そんなBGMがかかってそうな。

かの渡辺淳一先生が、着物が似合う凛とした芯の強い女性をいつも小説の常に主人公にしたように、又吉先生もきっとこの主人公のような昭和っぽくて、自分の夢を捨ててでも誰かに尽くす、自己犠牲型で、でもちょっと弱い、そんな女性が好きなんだなぁと。

例えば、「そろそろ、光熱費くらい払ってくれないかな?」という彼女に、ヒモ生活をしている主人公は「君の家の光熱費を僕が払うのはおかしない?」とのたまう。ホントはひどいやつだと心ではわかっている。でも彼女は「それもそうだよね。」と返す。

小説としてうまいかどうかは賛否が分かれると思うけれど、書きたかったものを書いたというのが深く伝わり、私には面白かったです。世界観がだんだん確立されてきましたね。前作よりは確実に面白いです。でも、ちょっと評価甘いかも。又吉先生をコメディアンとして好きなので!

蹂躙(じゅう‐りん)という言葉が3回もでてきます。意味は「ふみにじること。暴力・強権などをもって他を侵害すること。」「弱小国の領土を―する」「人権―」。なぜ、こんなインパクトのある言葉を3回も?と思ってしまいました。なんか意味があるのですか?


そろそろ蔦屋の古本に並ぶと思います。笑)




by kitchenparadise | 2017-05-18 19:13 | 本と言葉

50歳からの聡明な生き方 桐島洋子著

50歳からの聡明な生き方~しなやかに人生を楽しむ37章~
桐島洋子著 大和書房
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先日もこの本の一節を少し紹介した。
おそらくタイトルは編集者がつけたのだろうと思う。私が読む限り、50歳以上の人向けというわけではないので、若い方にどうかしらと。

本の内容は、いつもの桐島節で、
「聡明とは、頭の中身だけではなく、こころのありようを含めたもの。」
「本物を見抜く目を磨き、人生のお守りにすべし」
「ダイエットはバランス。好きな男の前で裸で横切れるかどうかが基準」
「女性は誇りをもって母になろう」「女の弱さほと、醜い危険な武器はない」
「アンチ温暖化の生活作法」「食の安全は自分で守る」
などなどあらゆる時論が綴られていて、ちょっと異論を唱えたくなるところも含めて、楽しく読み終えた。

30年以上前に書いたベストセラー「聡明な女は料理がうまい」では、これからの女性は自立して自由になるべきだという女性解放の旗振り役にして、女性はいまこそ料理力を上げ、台所の権利を手放さないべきだというような逆行する考えを発表したことが話題だった。

単純に「働く女性は料理が手早い=聡明だ」という意見には共感しないが、家事より仕事のほうが価値があるように思える間違った日本社会の方向性を問題視したことには、考え方は違っても納得する部分も多い。

イヤイヤ料理はみじめな労働(レイバー)

わくわく料理は最高の活動(アクション)

桐島さんらしい、わかりやすいキャッチ。

確かに料理はわくわくしながらするのがいい。私も来客があると思うと、張り切るしわくわくする。
何を作ってもとなそうか、楽しませようかというのがわくわくのもの。常に相手に恵まれているとも言えるかもしれない。喜んでくれる相手しか来ないのも、わくわくを助けている。

ただ、常にわくわくではない。家族に作る時はちょっと違っていて、健康や安全のことを先に考える。添加物や農薬を避けたほうがいいとか、体に負担のない料理がいいとか、時間の無い中で手早く作らなければいけない。だからおもてなし料理でなく、シンプルで十分。プレッシャーもない。ハードルなんて低くていい。
私にとって家庭の料理は、雨が降りそうな朝、家族のカバンにそっと折り畳み傘をいれておくような気持だと思う。

料理がプレッシャーだという方もいる。
そんな方が桐島節を読むと、さらにプレッシャーになりそう。
そんな無理しなくていい。折り畳み傘を入れるくらいの気持ちで、作ったらどうでしょう。
茹でるだけ、焼くだけ、ごはんと具だくさんみそ汁だけでも十分。
昨日、紹介した木のセイロの蒸し料理なんて、手早く心を込めるにはいいと思うけれど、いかが?
昨日のセイロブログはこちらで。
道具でだいぶ楽になるはず。






by kitchenparadise | 2017-05-12 14:28 | 本と言葉

まな板をほってほって掘りつくす本

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石村眞一先生の「まな板」という2006年に書かれた本を読んでみた。
法制大学出版局からでているシリーズ「ものと人間の文化史」のひとつで、本というより論文だ。

日本をはじめアジア、ヨーロッパの各地で多種多様なまな板を調査し、それらを比較・分類して、その使用法と食文化との関係を探る。さらに、考古・文献・絵画・写真資料を駆使して、まな板の変遷と台所や家具とのかかわりの歴史を描く、とまぁおかたい本。モノはまな板なのに、ホントにお堅くっていわゆるオタクで、私みたいなものにとってはたまらない。

目次が、第1章 俎・まな板の起源と中国における展開 第2章 日本の古代から中世に使用された俎・まな板 第3章 日本の近世に使用された俎・まな板 第4章 日本の近代に使用されたまな板 第5章 世界のまな板文化 第6章 現代のまな板  

どの世界にもオタク的な本はあるんだろうが、「まな板」だけで一冊。約3200円。すてき。

本では、福島県の女子学生に自宅のまな板を調査させている。

Q あなたの家のまな板の材質は?

A・木製61名 ・プラスチック製75名  

地方ということもあり木製が多い。
それでもやはり今はプラスチックのほうが多い。

Q 木のまな板の種類はどんな木製ですか?

A・ヒノキ20名 ・マツ2名 ・スプルス2名 ・イチョウ1名 ・キリ1名 ・ヤナギ1名 ・ホウノキ1名 ・サワラ1名 ・解答なし31名

このような感じで、大きさや厚みやどこで使っているかなどもアンケートしている。一見どうでもいいような調査だけれど、私には興味深い。
解答なし31名は、なんの木材が知らずに使っているのが半数以上ってこと。ほ~。結構そういうものですか。
木によってかなりちがうのだけどなぁ。

これまで、様々な種類の木のまな板を使ってきて、私が感じた木によっての違い。

ヒノキ:一番出回っているので使っている人が多い。抗菌性に優れている。刃あたりが良く包丁には優しい木材。

イチョウ:水はけがいい。弾力性がある。ややかびにくいと思う。反りにくい。刃の傷が少しもどる復元力がある。ちょっと軽い。

ヒバ(私のは青森ヒバ):とてもカビにくい。独特の香りがあり、抗菌性に優れている。

どれを選びますかって言われても困るけれど、使い方さえ間違えなければどれでも長くカビさせずに使える。

まな板の使い方はこちらのブログを一度ご覧ください。





by kitchenparadise | 2017-04-22 13:50 | 本と言葉

100人に1人がサイコパス!?

「サイコパス」
中野信子著(文春新書)
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非常に興味深い本で、一気に2回も読んでしまった。著者の中野信子先生がテレビ番組で「トランプ大統領は非常にサイコパス傾向のある方と思われます」とコメントしているのを思い出して、本屋で買ってみた。サイコパスは異常心理の持ち主でほとんどが犯罪者だと思い込んでいたけれど、本を読んでだいぶ違うとわかったし、100人に1人の割合で存在し、どんな時代にも居たということも納得し、スッキリした。

確かに犯罪者にサイコパスはとても多い。とんでもない犯罪を平然と遂行する。反省どころか被害者の気持ちが分からない。この1週間、テレビにでてくる容疑者を並べてもサイコパスだらけだ。

だが、犯罪レベルでないサイコパスもたくさんいる。

著者はサイコパスの特徴をあげている。

①外見や語りが過剰に魅力的で、ナルシスティック
②恐怖や不安を感じにくく。大舞台でも堂々とみえる
③多くの人が倫理的な理由でためらいを感じたり、危険に思ってやらなかったりすることも平然と行うため、挑戦的に勇気があるようにみえる。
④お世辞がうまい人ころがしで、有力者を味方につけていたり、崇拝者のような取り巻きがいたりする
⑤常習的にウソをつき、話を盛る。自分をよくみせようと、主張をコロコロかえる
⑥ビックマウスだが飽きっぽく、物事を継続したり、最後までやり遂げることは苦手
⑦傲慢で尊大であり、付き合いがなくなった相手を悪く言う。
⑧人当たりは良いが、他者に対する共感性そのものが低い。


すべてでなく、このいくつかに当てはまる人はサイコパス、サイコパス傾向ということらしい。
もうすでに何人か思い浮かべることができるかもしれない。
サイコパスはとても魅力的に人をひきつけることから、経営者には特に多いという。

脳内の器質のうち、他者に対する共感性や「痛み」を認識する部分の働きが、一般人とサイコパスとされる人々では大きく違うらしい。
もうつまり、サイコパスに正しいことをわからせようとしても、わかったふりはできても変わらないというわけである。脳のしくみなのだから。

本には、サイコパスがもてる理由や、環境によって変わるサイコパスのこと、他の病気との合併症、サイコパスの自己診断など、いろいろ掘り下げてあって、どの項目も非常に興味深い。

まわりに当てはまる人がいませんか。距離をおくしかないらしいです。近づかないこと。



by kitchenparadise | 2017-04-19 12:39 | 本と言葉

「彼が通る不思議なコースを私も」

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最近、白石作品に凝っている。福岡在住ということで地名になじみがあり、登場人物に不思議ちゃんが多かったり、ミステリーではないのにどんでんがえしがあったりして面白かったこともあり、もう4冊続けて読んでいる。

この「彼が通る不思議なコースを私も」という小説も、登場人物がちょっと不思議な小学校の先生。家庭に問題を抱えた生徒に首をつっこまずにはいられない。
熱血というより若く信念のある先生で、強靭なメンタルの持ち主でもある。給食で温かいおかずが食べられないという特異体質をもつ生徒の家庭にも首を突っ込んでしまい、学校を辞めさせられてしまう。

その男の子のシングルマザーもまた心の病をもっていることがわかる。それは、台所症候群という病だった。
初めて聞いたが、実際にある病らしい。

「価値観の多様化を背景に増加している主婦症候群の一つで、主婦が家事に対する虚無感におそわれて、台所に立てなくなる自律神経症」ということ。
主人公のシングルマザーはキャリアウーマンだが、実際には結婚を機に仕事を退職、もしくは仕事をせずに結婚し家庭に入った女性に多くみられるらしい。
主婦・妻・母親の役割りをこなすべきだという概念に縛られ、逆にそれがうまくいかなかったり、それに対する不満や不安感のストレスが原因となる場合が多く、育児ノイローゼなどと同じような病気らしい。この状態から台所に立てなくなるのが台所症候群で、やらなければと焦るほど何もできなくなるという。

小説の中のシングルマザーには原因がある。夫の母親がとても料理が上手で、父子家庭で育った妻の料理に不満で食べたがらなくなる。しまいには外で食べると偽ってひとり実家に立ち寄ってご飯をたべる毎日。「君の料理はまずいんだ」と言われたことがネックになり台所が避けたい場所になっていく。離婚。というわけだ。
離婚後、息子はコンビニ弁当ばかりを食べるため、温かい食べ物を受け付けなくなってしまったとうあらすじだった。

「役割をこなすべき。ねばならない」にとらわれるとロクなことはない。とらわれるのは、無神経よりまだやっかいだ。
料理に限らず、妻として、母として、社員として、社会人として、縛られるとそりゃぁ病気になる。かといって、とらわれるなと言われてもとらわれるんだから仕方ない。

料理家、桧山タミ先生が私に常に言う「がんばらんでいいとよ。」というのは、それを言っているだろうと思う。がんばらなくていいけれど、誰かのために作りたいと思った時のために、余裕があるときにちょっと準備しておけばいい。
13年前、桧山先生がから言われた「おにぎりがにぎれれば上等よ」。これが、心の病の一歩手前だった私を救った言葉だったのだと改めて思う。
あの時、がんばらなかったおかげで、今は料理が楽しくて仕方ない。

白石作品はなかなか面白い。よかったらどうぞ。







by kitchenparadise | 2017-04-07 15:10 | 本と言葉

マイナスエネルギーは圧倒的に強い

友人から面白いから読んでみたらと言われた本。
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中園ミホといえば、ドクターX外科医や花子とアンなどを書いた脚本家。ドラマをほぼ見ない私も知っている。
彼女は10歳に父を亡くし19歳で母を失くしている。OLになるも、仕事ができず失敗ばかり。水商売にやってみるが、全く向かずすぐに断念。結局母の友人の占い師の先生のアシスタントをきっかけに、自身も占いを勉強し、これがなかなか成功するのである。
脚本家になったのは失恋がきっかけらしい。26歳の頃、路上でであった大物脚本家を好きになり一方的にストーカー化し、振られる。この恋が諦められず、彼の書いた本を半年かけて写経のごとく書き写す毎日で、脚本の面白さに気が付いたという。なんともおもしろい人生なのだ。
彼女の脚本は取材でてきている。ハケンの時も、ドクターの時も、それぞれの職業の人を飲みに誘って徹底的に何度も何度も話を聴く。裏側にある深い本音を聞き出すことに面白さがあるという。
貧乏だったり、両親が亡くなったり、普通の仕事には到底向かなかったという過去からだろう。恵まれない状況から這い上がる人や遅咲きの人、過酷な条件で働く人など惹かれて書いたのであろうという作品が多い。
人ってやはり、恵まれた環境でうまくいく人より、逆境をバネにしてきた人のほうが圧倒的に強いなぁと思う。

読み終えた後、昨日SWICHという番組を観ていたら、私が好きな作家のひとりである宮本輝が出ていて、生い立ちを語っていた。

彼は、中学の頃から小説家に憧れるようになったらしい。

父が仕事で失敗し浮気。母はアルコール中毒のようになった。彼が中2の頃、親戚のところへ行くと出て行った母は、そこで睡眠薬を大量に飲んで自殺を図る。「すぐにこい」と言われるが、行けば母が死んでしまうような気がして、押し入れに入って井上靖の「あすなろ物語」を読み始める。
途中まで読んだところで、父がやってきて母が一命を取り留めたことを聞く。彼は最後まであすなろ物語を読み続ける。
その時のことを「感情移入ができたからか、それはそれはおもしろい小説だった。こんな人の心を動かす小説が書いてみたいと思ったのはその時だった」と語っていた。
大学卒業後、広告代理店に就職するも作家の夢をあきらめられず27歳で退職。30歳、「泥の河」で太宰治賞を受賞して映画になったのは有名だ。私も20歳の頃、「ドナウの旅人」という宮本作品にはまった。引き込まれるような内容で、一気に本好きが加速した。
数々の名作は、やはり逆境がベースだったと聞くというのはうなずける。

中園ミホは言う。「どんな人にでも運気はある。強運とそうでない人の違いは、タイミングを捕まえる違いだけだ。」
一見、マイナスだと思う経験がある人ほど、タイミングを掴むと強いのは間違いない。
マイナスエネルギーは大きなプラスのエッセンスになっている。


by kitchenparadise | 2017-03-23 14:50 | 本と言葉

小説と映画、そして道具

「一度発明されちゃったものは、なかったことにはできないの」
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これは「罪の終わり」(東山彰良著・新潮社)の一節。

2100年後半のアメリカで、人々が飢え、食人行為が正当化されていく時代を舞台にした小説で、主人公ナサニエルに、眼球に埋め込む「VO」手術をどうしても受けさせたいと願う彼の母親が発した言葉である。
この「VO」は、眼球装着型の人口知能(?)のようなもので、装着すると脳が覚睡し、身体能力が上がり、ニュートラルネットワークの情報を見ることができる。お金のある人のほとんどはVOを装着している。
貧困だったピアもやっと息子に装着はさせたものの、皮肉にも「VO」は小惑星の接近により不具合が生じてしまう。
この小説は人間の倫理観のタブーをテーマにしている。圧倒的な迫力があり、衝撃的。「流」に続くすばらしい作品だった。


先週、その本の著者、古い友人でもある東山さんが店を訪ねてくれたので、「あのVOはよくぞ思いついたね。世界中が究極な便利求めて、最後は小惑星で不具合かぁ。」と話したところ、
「それならね、サバイバルファミリーもある意味似てるから観たら?電気やガスが全部ストップした家族の奮闘話。なかなかだったよ。」と彼。
それで、さっそくレイトショーに。

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うーん、とても面白い!
そうきましたか!小日向さん主演らしく、十分コミカルなエンターテイメントなのに、観た後はかなり考えさせられる映画だった。ある日突然、地球から電気が消えたという変わった設定。電気はおろか、電車、自動車、ガス、水道まで、電気を必要とするあらゆるものが、完全にストップする。廃墟寸前となった東京を、鹿児島の実家に向けて小日向家族が自転車で脱出するというお話。
エラそうなわりには家族を守れない父、魚もさばけなかった母、スマホ命だった娘、授業はすべて撮影してパソコン保管していた大学生の息子。最初はお互いに文句ばかりだが、生きぬいていこうとするサバイバル状態を通して、家族で向き合い団結していくのがワクワクする。

子供たちを連れて観に行ったほうがいい。オススメ。

「便利がかえって不便を生むのよ」というのは料理家の桧山先生の口癖。
とはいえ、ナサニエルの母がいうように、一度発明されたものは、もうないことのはならないのも事実。

パソコンやスマホのようなここ数年で当たり前になった便利な機器もなかったことにはならないし、台所道具で言うと、電子レンジ、冷蔵庫、フードプロセッサーなどもなかったことにはならない。半世紀前までは、レンジの代わりに蒸し、冷蔵庫の代わりに干物にし、フードプロセッサーの代わりにすり鉢だった。便利にはなったけれど、それが無くては生きられなくなった現代人を考えると恐ろしくもある。

「発明されたものはなかったことにはできない」世の中で、私たちが何を選択して、何をできるように、何を子供たちに伝えていくかは、発展よりも大きな大きな課題だと思った。責任は、私たちもあると思う。

追記:このblogを書き終えたあたりでお嬢の担任から電話があった。美術の時間に版画用のナイフで指をざっくり切ったのだと。まあね、小型ナイフやら使わせたことないからね〜。なんでもさせておくべきだなぁと、改めて。

by kitchenparadise | 2017-02-16 13:49 | 本と言葉


福岡の台所道具専門店「キッチンパラダイス」のオーナーAYAの日記。調理道具の実験や考察、お店のお知らせ、そのほか個人的な日常も毎日綴ります。ご連絡はキッチンパラダイスのHPからどうぞ。


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