人気ブログランキング | 話題のタグを見る

仕事が忙しくても料理が楽しい理由

白石一文さんの本「彼が通る不思議なコースを私も」に台所恐怖症(台所症候群)の母親がでてきます。
台所恐怖症とは、食事の支度をしようとするとめまいやむかつきがでて包丁が握れないというこころの病。
料理を作らねばならない、子どもを育てなくてはいけないという過大なプレッシャーから逃れられず、食事を作るのがむなしい、怖いという心理状態に陥る病気らしいです。全くわからないでもないです。そこまでなくても、キチパラにこられる方には、「手を抜くことが悪いことに感じる」「結局、デパチカやコンビニになってしまい落ち込む」というご相談も多いのです。

わたしは娘が0歳で会社を立ち上げ、1歳5か月でお店を始めました。きっと周りからみたら子供を育てながらお店も持ちたいなんて、なんと身勝手だと思われたに違いありません。ですが、祖母もずっと仕事しながら片親で4人の子を育てていたし、母も働きながらさっさと料理を作って大勢の人をもてなすような人だったので、仕事をするのが当然だと思っていたのです。

しかしそんな両立がうまくいくのは、昭和の時代や田舎に住んだりして大家族で子供を育てていた頃の話。夫婦と子供だけの家庭ではそうはうまく運びません。父は仕事のことしか考えず家事をしなかったからか、私も夫に料理を頼む考えが浮かばなかったので、結局自分にのしかかります。当時の私はプレッシャーというより、「もっとちゃんと料理をしたいのにうまく時間がとれない」という自己嫌悪や焦りのような感情が入り混じっていました。

たまに料理を習いにいっても、結局は習った手間のかかる料理は作る時間を持てず、冷蔵庫に貼ったレシピを見るたびにため息をついたものです。「学校から帰ったら母がシュークリームを焼いてくれてけど、私にはそんな時間なくて娘が可哀そうだなあ」「買ってきた餃子を焼くだけなのは、今週3回目だなぁ」なんていう申し訳なさにとらわれたものでした。

そんな時、料理家の桧山タミ先生に言われたのが「おやつにおにぎりで十分やない?」という言葉。
「そのかわり美味しい美味しいおにぎりを作って置いておいたら。おにぎりなら1分で作れるやないの。」
お嬢が好きなパンや、どこぞの有名店のケーキを食べて喜ぶのをみて安心していた私は、愛情のおきどころをズバリ指摘された気がしました。大事なのは、お嬢の健康を考えながら空腹と満たしてあげること。これ以外のことにはとらわれてはいけないと、考えを変えました。

それから、私の小さな目標は「短い時間で家族の体に良いものを少しだけ作る」こと。
見せかけの豪勢な食事や品数にこだわるのは止めにしました。

例えば、八宝菜を作るつもりでできない時は、木の蒸し器でただ蒸すだけに変更。美味しい豚なので間違いなく美味しいはずです。
仕事が忙しくても料理が楽しい理由_c0228646_12363719.jpg
出汁をとっておいて、鶏肉をミンチにしておけば、野菜とともに一人分の小さい土鍋で温めるだけの鍋が。
小鍋はとても便利で、いつまでも温かく食べられます。
帰宅して出来上がるまで10分。たくさん野菜をいれれば栄養も満点です。

仕事が忙しくても料理が楽しい理由_c0228646_12415459.jpg
5分しかない時は、ソーメンを茹でて、キャベツとにんじんの蒸し。千切り器もスグレモノを使うとあっという間です。
無水鍋なら大匙2、3倍の水を沸かすだけだし、あらかじめ蒸した鶏肉や豚肉があれば豪華なサラダになります。

毎日作るおにぎりも、だんだん美味しくなりました。塩にこだわり、米にこだわり、海苔もいいのを見つけました。
そして道具屋という職業を生かし、一番美味しくできる土鍋をいろいろ試しました。
私が道具のテストを始めたのもこのころです。


ハンバーグやお肉も、フライパンによって調理にかかる時間が全く違うこと、火の通りやうまみの残り具合も違うことがわかりました。

お店を経営していると寝る暇もないほど仕事に追われる時もありましたが、プレッシャーや自己嫌悪に陥ることなく料理が続けられ、しかもだんだん楽しくなっていったのは、道具や素材の知識が増えて、簡単に美味しくできるコツがわかったからだと思っています。

それは、大嫌いだった英語が好きになった経験にも似ています。偶然好きな先生に出会い、その先生の影響から自ら進んで英語を勉強するようになり、成績も上がり、さらに英語が大好きになっていた高校生の頃のことです。大学生の頃のは日常会話を英語にして遊ぶほどになりました。(笑)


そうなんです。
思いがあれば、たとえ時間がなくても大丈夫。料理は、道具、素材、レシピなど、知れば知るほど楽しく簡単になってくるのです。誰からか褒めてもらおうなんて思いません。お嬢が大きくなった時に、「時間がなかったママだけど、心はこもってたんだよ」というメッセージが食卓の記憶ともにゆっくり伝わっていればいいなあと思います。







by kitchenparadise | 2017-06-02 12:42 | 私、こう思う


福岡の台所道具専門店「キッチンパラダイス」のオーナー日記。お店のお知らせ、調理道具の実験や考察、そのほか個人的な日常も毎日綴ります。ご連絡はキッチンパラダイスのHPからどうぞ。


by kitchenparadise

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

ブログパーツ

カテゴリ

全体
道具:銅鍋
道具:銅の玉子焼
道具:ステンレス鍋
道具:土鍋・琺瑯鍋・その他鍋
道具:中華鍋
道具:鉄のフライパン
道具:フッソ加工のフライパン
道具:キッチン道具全般
道具:スライサーやおろし器
道具:すし桶・おひつ
道具:木のセイロ
道具:ホーロー・ガラス容器
道具:まな板と包丁
道具:すり鉢
道具・調理家電
なみじゅう(入荷状況も)
道具:新生活の道具
おしらせ(SALE等)
キチパラ講座
私、こう思う
キチパラのなりたち
本と言葉
私とお店の日常
私が好きなもの、好きな店
耳下腺腫瘍顛末記
桧山タミ先生
プロフィール
未分類

以前の記事

2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 11月

最新の記事

桧山タミ先生「みらいおにぎり..
at 2020-03-05 08:44
夢は探さない
at 2020-02-21 13:58
桧山タミ先生がEテレ「美の壺..
at 2020-02-17 12:38
愛と献身をもって育てること
at 2020-02-15 08:30
2週間動くなと言われたら
at 2020-02-07 16:20

検索

その他のジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧